2012年5月16日水曜日

分子標的薬の抗がん効果が高い症例とは

がん治療に登場している新しいタイプの抗がん剤「分子標的薬」。

がん細胞だけで過剰に働いている分子や、増殖や転移にかかわる分子を狙い撃ちするため、従来の抗がん剤に比べ正常細胞のダメージ=副作用が少ないとされる。しかし、実際に分子標的薬タイプの抗がん剤使用が広がると、想定外の副作用も認められるようになってきた。その中でも皮膚障害は非常に顕著な抗がん剤副作用なのだ。

消化器領域で現在、分子標的薬が使われているのは肝臓、胃、膵臓、大腸のがん。例えば大腸がんで使われているセツキシマブやパニツムマブは、がん細胞の表面に顔を出す「EGFR」というタンパクに結合し、増殖や転移を抑え込む。しかしEGFRは、皮膚や毛包、爪の増殖・分化にも深く関与しているため、その働きも同時に抑制され、皮膚障害が高頻度に現れる。ニキビに似た皮疹、全身の皮膚が乾いて亀裂が生じる乾皮症、かゆみを伴う掻痒症、爪の周囲が腫れて痛む爪囲炎などは、辛い副作用だ。

がんだけで働く分子を探すのはなかなか難しく、分子標的薬もまた正常細胞を傷つけてしまうのが現実。 だが、皮膚障害の強いがん患者ほど、分子標的薬の抗がん効果が高いという事実がある。そこで、副作用の皮膚障害にうまく対処しつつ、抗がん剤治療を継続することが治療の肝になるのだ。

既知の対処法として、抗がん剤治療の開始前から抗生物質の内服や保湿剤の塗布を予防的に開始し、開始後にはステロイドの塗り薬を適切に使うと、皮膚障害が軽減される。この基本的な抗がん剤対処法を知らない医師も多いので、がん患者自身からの啓蒙も不可欠なのだ。